はじめて遊んだファミコンゲームはいとこの家で遊んだ『マリオブラザーズ』。
はじめて自分の手にしたファミコンゲームはといえば、けっこう遅れて『ドルアーガの塔』。
はじめて遊んだアーケードゲームは、なにしろあの時代なんでメーカー純正かどうか今となってはわからないが、とにかく「インベーダーゲーム」系のなにか。
はじめて遊んだパソコンゲームなら、たぶんデモ機で走っていた『ロードランナー』。なにしろ昔のことでひどく記憶があいまいだけど、触る機会があの時あの場所にしかなかったと考えればこの結論に落ち着く。
はじめて自分のこづかいで買ったパソコンゲームは、いよいよ記憶がはっきりしないがエニックスの『不思議な旅』だったはずだ。
じゃあはじめて手にしたパソコンゲームは?
親に買ってもらったとはいえ、自宅ではじめて遊んだゲームソフト。さすがに忘れているはずもないが、困ったことにそのタイトルがわからない。
思い入れのないソフトかというと、断じてそんなことはない。パソコンを買ってもらったばかりの子が、唯一持っているゲームを遊びまくらないわけがないじゃないか。
厳密にはゲーム以外にもプログラムを打つことの方が多かったから、いまの感覚でゲームにハマるほどじゃなかったけど、それにしたってたっぷり楽しんだ。
それにしては、あの謎のゲームのタイトルがさっぱり思い出せないんだよなあ。このことはいまだに僕を悩ませているのだ。
あのゲームのことを思い出してみよう。
それは僕がまだ小学生だったころ。ハードはなんと富士通FM-7。
ここで小学生がFM-7とは生意気な! と思われるだろうから言い訳しておこう。僕は当時日本最安値クラスのPC-6001(定価89,800円だけど当時の実売価格は4万円前後だったかな?)やむなし、いやさVIC-1001でもよかろう(当時はなんと投げ売り特価19,800円!)くらいの気持ちでいたのだけど、なぜかスポンサーの家族は奮発してFM-7(定価126,000円)を買ってくれたのだった。あらためてありがとうございます。なんでそんな次第になったんだろうなあ。ショップの人の口が上手かったのかしら。
もともとあの幻のゲームもFM-7を買ったとき、ショップの人がつけてくれたんだったかそれとも「何かひとつはソフトがないと」と思ってその場で買ったのだったか、ともかくハードと一緒に家に届いたものだった。
FM-7なら当然ハミングバードソフトのアドベンチャーゲーム、といきたいところだがまだ我が家にはディスクドライブがない。当然ディスク専用のゲームは無理なのでこの幻のゲームのメディアもカセットテープということになる。
「カセットテープ」というメディアもいいかげん見なくなって久しい。ええと、CDやMDより前に主に音楽メディアとして一斉を風靡したアレのことですよ。もはや現代では「ほかにいろいろあったろうに、よりによってこれか?」と言う目でしか見れなくなったけど、当時はパソコンソフトの記録メディアとして大活躍していたのだ。
転送速度は約300〜600bpsだという。ネットワークでいえばADSLが下り約8,000,000bps、光で100,000,000bps(公称)と言われているから比べてみると凄まじい低速だ。低速通信の代名詞みたいに言われてるダイヤルアップ接続だって56,000bpsは出てたぜ。
そんなわけでロードはFAXみたいな「ピーガガーピー」の音とともに非常にゆったりと進む。そう、だいたい10分くらいかかったろうか。
初めてのロード(お店で見るゲームは最初からロード済みか、ディスクドライブで高速起動するところしか見たことがないので、テープのロードを見るのはこれが初めてなのだ)の記憶は鮮明だ。なにしろあんまり時間がかかるんで、これ壊れてるんじゃないの? と不安になって途中で止めちゃったり、ロードコマンドを入れ間違ってるんじゃないかと不安になって途中で止めちゃったり。
ああだってこのゲーム説明書もないんだもん。当時はよくある事だったとはいえ、今にして思えば大胆な話ではある。
そういえば、あの幻のゲームはどんなパッケージだったろうか。
もちろんオーディオカセットと同じパッケージングで、印刷してあるのは紙ペラ1枚、表面だけ。
本で言えば背表紙にあたる部分にはまず間違いなくゲーム名が書いてあったはずだが、それがどうしても思い出せない。もしかすると英語表記で、当時小学生の僕の目にパッと読めないタイトルだったのだろうか。
こんな調子だからメーカー名も書いてあったかどうか記憶がない。僕が思い出せるのは飛行機の空中戦を描いたパッケージイラストだけだ。
ピーガガーのロードがどうにかこうにか終わり、ゲームを始める。
何度もくりかえすけど家で遊ぶ初めての市販ゲームだ。ある種の緊張と感動とともに目に飛び込んできたのは……
巨大な「カンジ ヒーカンジ」の文字だった。
やっぱりこれ壊れてんじゃないの? と当時の僕が思ったとして責められるいわれはあるだろうか。
タネあかしから先に書くと、FM-7には別売りで「漢字・非漢字ROM」というボードが用意されていて、それはカタカナと英字しか使えないFM-7でも漢字やひらがな表示が可能になるという拡張オプションだったのだ。
ただしソフト側では漢字ROMの有無が判別できないので、ROMのないハードで漢字表示しようとすると文字化けするという悲劇も起きる。
つまり、このメッセージが意味していたのは「カンジ・ヒカンジ」という見出し文。その下に続く文章をよく読んでみると、お持ちのハードが漢字ROM入りかどうか選んでくれという旨のことが書いてある。
OK、そこはよくわかった。なんでハイフンを入れてかえってわかりづらい「ヒーカンジ」にしたのかはわからないけど。ちなみにこれ、漢字ROMがあってもせいぜいゲーム開始前の操作説明1画面が漢字になるだけで、たいしてありがたみがない。いったいなぜわざわざこんなにも漢字ROM対応をアピールしたのかも謎だ。
いたずらに頭を悩ます「カンジ ヒーカンジ」の壁を越えると、いよいよゲーム開始だ。
疑似3D画面の中、空へ飛び立っていくわが戦闘機。かすかに「ちゅいーん、きーん」と効果音が聞こえた気がしたが、実はそれは効果音ではなく負荷のかかった基盤があげるノイズだった。
今だったら凄まじいマシンパワーの消費だとびっくりするかもしれないが、この頃はどっちかというとカーソルが明滅するだけで「ふぉん、ふぉん」と音がするようなしろものだったのでこの程度は余裕だった。INKEY$ループの入力待ちが奏でる「ふぉふぉふぉふぉふぉ」という音を憶えているFM-7ユーザーは多いだろう。
とにかく上昇した戦闘機。画面に大きく描かれる「FIGHT」の文字を僕は「ふぃぐ…はと?」と読んだのだが、これはまだ英語教育を受けていない小学生のことだから勘弁してやってほしい。
あれ? そういえばこのゲームのタイトルもこんな感じじゃなかったっけ? もしかしてあの大きな「FIGHT」の文字ってタイトルバックだったのか。
あわててGoogleで「FM-7 FIGHT」で検索してみると、トップに出てきたのは『THE HORIZON 3D FIGHT』というソフトの記事。「3D FIGHT」……たしかに疑似3Dではあったし、これか? しかしこの記事にはスクリーンショットがなく、手がかりは少ない。このページを見るかぎりでは雑誌掲載プログラムで、テープメディアとして販売されていたわけではなさそうだ。掲載年月日を見れば1985年。僕がFM-7を手に入れたのは1984年のことだったはずだから、うーん、惜しいが違うのか。
あのゲームの内容は至って単純。疑似3D空間の奥から敵機がやってくる。実はこの敵機、見えない5本(くらい。たしか)のレールを直進して近付いてくるような動きをするので、こっちも照準を5点のうちどれかに合わせて弾を撃てばいい。
自機が手前に見える疑似3Dの画面から言えばシューティングゲームっぽいが、どっちかといえば簡易版『ミサイルコマンド』、みたいなものと考えた方が早いだろう。
さて、この幻のゲーム。僕の記憶の中にはこれ以上の情報がない。ここで頓挫してしまうわけだ。
Webで情報を探そうにも、なにしろゲーム内容が至ってシンプルなので、検索ワードに使えそうなユニークなキーがほとんどない。今までの内容で言えば「FM-7 疑似3D シューティング 1984 カンジ ヒーカンジ」くらいか。
カンジ ヒーカンジにこだわりすぎなのは分かっているので、「FM-7 疑似3D シューティング 1984」で検索してみる。
いや『ジェルダ』は違うんだ。たしかにFM-7用で疑似3Dでシューティングだけど、ものすごく違う。そもそも疑似3Dというのが間違っているのか。たしかに『ジェルダ』はまさしく3Dっぽさあふれていて「疑似3D」と呼ぶのにふさわしいけれど、『ジェルダ』の画面を見た後だと、あの幻のゲームを「疑似3D」と呼ぶのがはたして正しいのかなんだか自信がなくなってきたぞ。
では「FM-7 シューティング 1984」で検索すると……さすがに広すぎてとらえどころがなくなってしまった。
こんなあいまいな検索キーで検索しようとすることがすでに間違いなのだ。
ではどうしよう。他にアイデアはない。
そこで思い出したのが、さっきからリンク先に使わせてもらっているサイト「Oh! FM-7」だ。
ここには世界最高レベルのFM-7用ソフトのデータベースがある。ここを順ぐりに調べていけば、いつかは目当てのゲームに当たるんじゃないか?
さっそく検索ページからいくつか確定的な部分だけチェックを入れていこう。対応機種:FM-7、メディア:テープ、ジャンル:アクション、発売年月:1984年以前。これで検索してみると……
411件!
さすがは世界最高レベルのデータベース。検索条件をしぼっているにも関わらず、これだけの量のソフトが登録されているのか。
いや、これ、411件も順に見るの? さすがに大変すぎない?
一応上から順に10件見たあたりで早くも音が上がりかける。ちょっと待って、これを順に見るのは最後の手段に残しておこう。
検索条件に「タイトル:FIGHT」と入れてみる。ゲーム開始後に表示される文字列でしかないが、こうなったら藁をもつかむ心境だ。よし、一気に7件まで減ったぞ。
一気に全部新規ウィンドウで開いてみると……あった!
あったぞ!
これ、このスクリーンショットは間違いなくあのゲームだ!
そのゲームの名は『SPACE FIGHTER』、別名『FIGHTER』。1982年発売のコムパック社のソフトだ。
なるほどこのタイトルでは「FIGHT」もろくに読めなかった僕の印象に残らないのも納得。
ゲーム中のスクリーンショットはあるのにタイトル画面のスクリーンショットがないということは、やっぱりタイトル画面そのものが無かったのか。どうりで憶えてないわけだ。
当時はゲームも商品パッケージというより「プログラム」という意識が強く、そういう意図で作られたゲームはタイトル画面のない場合が多かった(極端な例だと、文字コードを16進数に変換するためのプログラムにタイトル画面は必要ないでしょ?)。このゲームもプログラムリストが雑誌に掲載されていたそうだから、そういう「プログラム」としての面が強かったのかもしれない。
いやあ、それにしても初めて知ったけどこのゲームの舞台って「SPACE」だったんだ。いくらなんでもこんな水色の空の色した宇宙ってないだろ!
ケンサク "Steins;Gate 8-bit"