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ブリスター・ジョンの『あの頃8ビット・マシンと』

8ビット・マシンが世界のすべてだったあの時代。若者驚愕、中年感涙! 天下御免のオールドゲーマー、ブリスター・ジョン(日本人)による回想録。

ビデオゲームにあこがれて

 かつてアーケードゲーム『ゼビウス』は日本中のゲーマーをとりこにした。
 あの世界をどうにかして自宅に持って帰れないかと日本中のパソコンユーザーは考えた。
 その時できるかぎりの全てがプログラムに込められ、ついに夢の「家庭用ゼビウス」X1版は完成した。
 歓喜の声は、その後あっというまに驚愕と失望のうめきに変わる。X1版ゼビウスは、安物のおもちゃにあっさりと敗北したのだった。
 そのおもちゃの名前は『ファミリーコンピューター』。それはまだファミコンが子供のおもちゃだった頃のお話。

■ 『ゼビウス』の衝撃

 ナムコ社のシューティングゲーム『ゼビウス』。
 1983年のはじめ、そいつは唐突にゲームセンターに現われた。

 『ゼビウス』がどんなゲームかまったく知らない人もいるかもしれない。今でも無数の移植版が発売されているので、そのうちのひとつにリンクしておこう。だいたいこんな感じです。

 それは一言でいえば縦スクロールシューティングという、それだけで言えば当時ちょっとばかり目新しい、くらいのゲームだったけれど、ゲームというものの認識を1段階変えてしまった画期的なゲームだった。
 ハードの限界の少ない色数でリアルにメカや情景を描く手法は、グラフィック表現の革命だった。
 地上の敵と空中の敵を、その場の判断で危険性をはかりにかけて撃ち分けるゲーム性は斬新な魅力があった。
 激しいゲームの最中ふいに訪れる一瞬の静かな間の後に、押し潰されそうな巨大なボスキャラクターが圧倒的な物量とともに迫ってくる迫力は、かつてゲームで見たことのない「演出」だった。
 あえて無機質にされたミニマルな電子音のBGMはゲームに奇妙な神秘性を与えていた。
 不意に現われプレイヤー機に横付けし、何をするわけでもなくまた去っていく「シオナイト」や地面に描かれた巨大な地上絵、何もない地面を撃つとなぜか時々現われる「ソル」。何か意味ありげで、それでいて全貌が明らかにされない謎めいた世界観は、この裏には必ず意味がある、それを解き明かしたいとプレイヤーに思わせた。
 こんなゲーム今まであったか? まさか!
 『ゼビウス』は巨大なブームになり、『ゼビウス』を置いてないゲームセンターなんてそこらの駄菓子屋さんくらいしかなくなった。
 普通ゲームセンターのゲームはある程度の周期で別のゲームに代替わりするものだったけど、『ゼビウス』はいつまでもプレイヤーが途絶えなかったせいでえんえんゲーセンの一角を占め続け、しまいには「XEVIOUS」のタイトル文字がゲーム画面に物理的に「焼き付き」を起こしていた。
 ビデオゲーム(今で言うアーケードゲーム)にほとんどページを割いたことのないパソコン雑誌までがこぞって特集を組んだ。
 そう、パソコンのユーザーが「本気で」アーケードゲームに向かい合ったのはもしかするとこれが最初だったのかもしれない。

■ 8ビットの戦い

 いま思えば奇妙な気もするけど、当時のPCシーンではアーケードゲームのことはあんまり意識されていなかった。
 もちろんメーカーの許諾を受けた移植版も(まあ、数えるほどには、たぶん)あったし、いわゆる「勝手移植」となると相当あったはずだ。たとえばパソコン雑誌の投稿プログラムコーナーには名前こそ違えど画面や説明を見るに「あ、これはゲームセンターのあのゲームだ」となんとなくわかるゲームが毎月のように載っていたり、いやあおおらかな時代だったなあ。
 アマチュアの投稿だけならともかく、そういう勝手移植版がいかにもあのゲームとよく似た名前でパッケージソフトとして売られていることもあって、いやあ本当におおらかな時代でしたね。
 かれこれ25年以上前の話。なぜそんな状況が許されていたのかは想像するほかないけれど、マーケットの小ささとか著作権意識の薄さとかはもちろんのこと、「言うほど似てない」という現実もそこにはあったのだと思う。

 そもそも当時のハードの多くはPCGやスプライトという意識が、あ、めんどくさい話はどうでもいいですねすいません。では極めておおざっぱに当時の「言うほど似てない」感を理解してもらうために、アーケードの名作『ディグダグ』の勝手移植版として有名なMZ-700版『ジッグザッグ』の画面でもごらんいただこう……と思ったけど、時代が時代だけになかなか見あたらないなあ……ええと、これまた有名な『MZ-700友の会』のこのページの中ほどにあるのが『ジッグザッグ』です。ごらんの通り「言うほど似てない」でしょ?
 本当はPCGボードを使えばもうちょっと似るはずなんだけど、それも画面レベルでの話。無視されたフィーチャーもあるし(細かいことはまださておき、そもそも2種類いるはずの敵キャラが1種類しかいない)、ルールは同じ(まあ、おおむね)でも操作感やゲーム性に至ってはだいたい別物。そういうのが当時の勝手移植だった。

 そもそもハードの設計思想の段階で違うのだ。かたやアクションに特化した専用基盤、かたやプログラムを組む事が主目的の汎用機。
 ハードの限界を考えれば差が生まれるのは当たり前で、みんな「そんなもんさ」と気にもしていなかったのだ。
 そんなことよりも、アーケードゲームのルールを独自に応用したショートプログラムを組んだり、技術的な壁を小粋なアイデアで解決することの方が重要で、みんなそこで楽しんでいた。アーケードゲームを寸分違わず本格的に移植する気は、たぶん誰にもなかったんだと思う。

 そんな時に現れたのが『ゼビウス』だった。

■ ゼビウスを作るのは誰だ

 『ゼビウス』はとにかく革新的だった。
 あんまり革新的だったので、それまでアーケードゲームと無関係のような誌面だったパソコン誌に続々アーケードのコーナーが発足したのは先に書いた通り。
 パソコンユーザーがアーケードを真剣に意識しだしたのはこの時だったんだろう。
 折しもパソコンのハード性能もプログラムのノウハウも日進月歩で進化していた頃。
 まずスタープログラマーの森田和郎氏が『アルフォス』を開発した。
 これは名前の通りオリジナルゲームで勝手移植とは違う……けれども、明らかに『ゼビウス』にインスパイアされたゲームで、本当にわざわざ『ゼビウス』のナムコ社から許諾を得ている(「©NAMCO」の字が異様に目立つ!)というなんだか凄く律儀なゲーム。
 当時のハードでスクロールといえばテキストが下から上にスクロールすることしか考えられてなくて、縦スクロールシューティングに必須の「上から下へ」の逆スクロールがまず最初の壁だったなんていう時代。いきなり『ゼビウス』風なスクロールと高速で独自に動くキャラクターを実現した『アルフォス』は画期的だった。
 これができるなら、『ゼビウス』だって夢じゃない!?

 そしていまや本家移植版より有名かもしれないPC-6001用『タイニーゼビウス』。
 「入門用パソコン」としてばつぐんに安いが性能もそれなり、そもそもハードじたい後継機が出そろってそろそろ潮時と考えられていたPC-6001に『ゼビウス』を移植するという大胆すぎる壮挙!
 さすがにものには限度というものがあって完全再現とはならず、むしろゲーム感覚がオリジナルと違いすぎたために「タイニー(簡易版)」の名を付けることになったこの作品だけど、当時底辺のような存在だったPC-6001(ユーザーの皆さんごめんなさいね。本当は僕も好きなマシンなんです)でここまでできた、というのは誰にとっても嬉しいおどろきだった。

 その頃『タイニーゼビウス』発売元である電波新聞社(マイコンソフト)からは次々とハイクオリティな移植版が発売され……うん、まあ有名なPC-8001版『ディグダグ』MZ-700版『マッピー』もそのシリーズだったりするけど、そこはそれハードの限界。
 当時トップクラス──というか明らかに他をぶっちぎった──強力なPCG機能をもつX1というマシンがあった。
 アクションゲームのグラフィックには抜群の強さを発揮したハード、X1ならあるいは!?
 そして発売されたのが史上初、本当にタイトルが『ゼビウス』のパソコン版『ゼビウス』。『ゼビウス』X1版だ。
 リンク先があんまり詳しくて僕が付け加えるすきまもなくて参っちゃうねどうも。
 とにかくX1版『ゼビウス』はパソコンで本気の『ゼビウス』を実現した。そりゃまあ『アルフォス』のように2ドットなめらかスクロールじゃなくて4ドットスクロールだ(つまり、スクロールが4ドットずつガクンガクンと行われるという……それでも8ドットスクロールが当然の時代によくやってたんだよ)。色合いもプログラム上こうする他なかったとはいえ減色バリバリで明るすぎ、地上物は上を通り過ぎるだけでチカチカ点滅し、先のエリアに進むたびにゲームが一時停止してじっくり数十秒もロードする。
 それでも当時究極の移植版はそこにあったのだ。その先6ヶ月(たぶん。当時はなにしろ発売日のデータが少なくてややこしい)の間、X1版『ゼビウス』は唯一の移植版『ゼビウス』として君臨し、『ゼビウス』があるからという理由でモニタ込み20ン万円のX1を買う猛者も現れた。
 今にして思えばアーケード基盤を買えばもっと安上がりだったのかもしれないけどそんな発想は当時なかなか無かったし、それに……すぐ身近にもうひとつの『ゼビウス』が迫っていた。

 ファミコン版『ゼビウス』だ。

■ ホビーマシン侮るべからず

 アーケードとパソコンの間に大きなミゾがあった当時、もっと深いミゾはパソコンとファミコンの間にあった。
 その頃のパソコン雑誌を眺めてみても、アーケードゲームの記事はあってもファミコンや家庭用ゲーム機についてはまったく無視のかまえ。新作ソフトのレビューも新ハードの発売情報もなしだ。僕の記憶にある限りではファミコン発売の年、1983年末頃に『テクノポリス』誌で突発的にぶちあげられた家庭用ゲーム機特集ぐらいじゃなかったろうか。
 お堅い上級技術誌でゲーム機がとりあげられないのは今も昔も同じだけど、この時代はゲーム・ホビー中心のやわらかめの誌面でさえこの調子だ。
 わからないでもないのは、アーケードゲームがハード的にある種「最先端」を行っていたのに対して、家庭用ゲーム機はそういう位置にはなかったということだ。かたやプログラマブルな汎用機(さっきも似たようなことを書いた記憶が……)、かたやLSIゲームや家庭用ブロック崩しの延長線上にあったホビーマシン。うん、やはり無視されたのもわからんではない。

 が……、この1万4800円の小兵と思われたマシンに『ゼビウス』は移植された。
 これが当時の大事件。なにしろそのデキが異常によかったもんだから。
 そりゃね、初代『マリオブラザーズ』(頭に「スーパー」が付かないほうね)の頃から多色スプライトをばりばり使えるアクションゲーム向きなハードなのはよくわかってたよ。でもあの『ゼビウス』を、ここまでハイレベルに移植できるなんて思わないじゃん。いや、それだけ「家庭用ゲーム機」というものをあなどっていたのかもしれないけれど……。

 ファミコン版『ゼビウス』は4ドットスクロールでもなければ色再現もほぼ完璧(「シオナイトが黒くない」というかなりささいなことが話題になったくらい)、もちろんキャラが重なってもチカチカしたりしないしロード時間はゼロ、全てはスムーズに動き音色は美しく、まあ簡単に言えば今までいろいろなことに目をつぶっていたと気付かせられたのだ。
 たしかに有名な「地上絵」は容量の都合でカットされた。空中要塞アンドアジェネシスはなぜか地上に貼り付いていた。タイトル画面はガタガタだった。ああ、でもその操作感はたしかにゲームセンターで遊んだそれを思い出させてくれたんだ。パソコン版で気にしないことにしていたそれとは大違いだったんだ。

 ソフト込み2万円を切るマシンでこんなゲームが遊べる!? バカな! だってさ、パソコンじゃ『ゼビウス』以前にそもそも定価1万4800円以下のマシンがないんだぜ?
 パソコン誌では異例のファミコンソフトのレビュー記事が組まれ、連載記事が始まり、攻略特集が載り、別冊誌が刊行された。もちろんその頃には『ゼビウス』だけの問題じゃなくなっていた。次々とパソコンでは不可能なレベルの移植作がリリースされる。
 とうとうアーケードの移植じゃないオリジナルソフトにして怪物中の怪物『スーパーマリオブラザーズ』が発売されたのは1985年9月。ファミコン版『ゼビウス』発売から約10ヶ月後のことだ。このソフトが「世界一売れたゲーム」なのは誰もが知っているだろう。

■ パソコンがおもちゃに負けた日

 実は『スーパーマリオブラザーズ』にはパソコン用移植版というのがある。
 その名は『スーパーマリオブラザーズ・スペシャル』。プラットフォームのひとつは皮肉にもかの『ゼビウス』で知られるX1だ。
 なぜ「スペシャル」かと言えば……それがあまりにも原作ファミコン版とゲーム性が違っていたせいだ。まず厳密には横スクロールアクションじゃない。マップは横に続いているけど、マリオの動きに合わせて動いてくれない。かわりにマリオが画面の端まで行くと、スルッと次の画面に切り替わる。
 操作性もかなりつらい。キーボード操作が基本とかそういう問題じゃなく、ファミコン版の自然で「思った通りに動く」操作に根本的になりきれていない。ジャンプ中に勢いを殺したくて、思わず左カーソルキーを壊れそうに強く押しちゃってたり。
 そもそも見た目からしてPCの限界を感じる。いやわかってるんだこれはこういう色しか出せないというかパレットを割り振って……あ、めんどくさい話はいらないですねすいません。

 この当時もそしていまも反応に困ってしまう移植版は、しかし確かにひとつの指標にはなった。「パソコンでファミコンのまねをしてもしかたがない」
 OK、こと純粋なアクションゲームではパソコンはファミコンにかなわないことをもう受け入れよう。もっと他に目を向けよう。パソコンははるかに高解像で高精細、ある面では処理速度でもはるかにすぐれ、キーボードという高度な入力装置も標準装備。ユーザー年齢層の高さは複雑なゲーム性も受け入れる器があった。
 技術面やゲーム性で、ファミコンではちょっと無理そうなゲームがぞくぞく誕生したのがこの時期以降だ。『現代大戦略』に代表される高度なシミュレーションゲーム、『ザナドゥ』みたいな複雑で奥の深いアクションRPG、『Ultima IV』のように壮大な規模のRPG、『SeeNa』で知られるハイスペックな3Dアクション、『殺人倶楽部』などの緻密なグラフィックとハードなシナリオのアドベンチャーゲーム。『レリクス』や『太陽の神殿』など、実験的なシステムやUIを搭載した意欲作も生まれた。おっとそういえばエッチなゲームの女の子のグラフィックも壮絶な進化をとげましたねほほほほ。

 PCと家庭用ゲーム機はアーケードを軸にほんの一瞬だけ交差して、そしてそれぞれ違う道を歩んでいったことになる。だからいまハイエンドなPCのFPSゲームが家庭用マシンに移植されていたりするのを見ると、何だか奇妙なかんじになったりもする。
 だってさあ……僕はあのころ『ゼビウス』の数あるパソコン移植版の中でもわりと後発で話題になりづらいくせになぜか移植のがっかり度ではことさら目立つうえ、よりによってあのファミコン版と同月発売という悲しい運命を背負っているFM-7版『ゼビウス』買って遊んでたってのに!

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