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ブリスター・ジョンの『あの頃8ビット・マシンと』

8ビット・マシンが世界のすべてだったあの時代。若者驚愕、中年感涙! 天下御免のオールドゲーマー、ブリスター・ジョン(日本人)による回想録。

「言葉探し」の迷宮

 「アドベンチャーゲーム」といって、最近では何が有名だろう。いわゆるノベル系ゲームも数に入れればそれはもうたくさんあるが、僕あたりのちょっとひねた昔かたぎとしてはむしろ『逆転裁判』シリーズの探偵パートとか、『アナザーコード』とか『タイムホロウ』とかあの系統が「アドベンチャーゲーム」という言葉としてはしっくりくる。
 どのゲームもそれぞれのベクトルを持ってるから、本当はこんなジャンル分けなんて不毛なんだけどね。それを言っちゃうと今回の話が始まらないのでちょっと脇によけておく。

 アドベンチャーゲームが今の形におさまるまで紆余曲折あった。それはパソコン版『オホーツクに消ゆ』、ファミコン版『ポートピア連続殺人事件』、とどめのファミコン版『オホーツクに消ゆ』という連続ブレイクスルーで完璧なまでに整備されたんだけど、今回はそれよりまだ前の話。
 ずっと昔のアドベンチャーゲームに「言葉探し」というものがあったことを覚えている人はもう少数派になってしまった。

 「ハイレゾアドベンチャー」なんて言葉で呼ばれていた時代。「ハイレゾ」は「HIGHer RESOlution(高解像度)」の略だ。なんだかハイデフっぽいが、ハイデフと違って絵が表示されればなんでもハイレゾだったのでずいぶんおおざっぱだ。
 絵が表示されればなんでもハイレゾアドベンチャー、じゃあ絵が表示されないアドベンチャーゲームもあったのか? といえばもちろんあった。そっちは「テキストアドベンチャー」なんて言って、本当に画面には黒地に白文字しか表示されないという思い切った仕様で、これはこれで主にアメリカ中心に勢力を築いていた(今はテキストアドベンチャーという言葉も意味がずいぶん変わっちゃいましたね)。この話を続けていくと「そもそもインフォコム社が……」とか話が止まらないのでまたの機会に。

■ コマンド>

 当時はまだ「コマンド選択式」という概念がなく、じゃあコマンド入力をどうやるのかというとキーボードで打ち込んでいたのだ。
 今でも「調べる」ボタンをタッチして、画面上の本棚をタッチしたりするでしょ。あれをキーボードから「シラベル ホンダナ」と打ち込んでいたというわけ。
 カタカナ入力なのは、本当に当時のパソコンがカタカナしかサポートしてなかったからだ。あれ一体どうしてひらがなじゃなくてカタカナだったんでしょうね。パソコン以前のメインフレームからの伝統だったのかな。
 ともあれ、「シラベル ホンダナ」と打ってReturnキーを押すと、「ホン ガ タクサン オイテアリマス」とメッセージが表示される。こういう対話式のインターフェースって基本的にはテーブルトークRPGが源流なんですかね。さっきから誰に聞いてるんだろう、いったい。

 これはまだわかりやすい方で、多数派なのは日本語入力を受け付けないゲームの方だった。もちろん英語だ。つまり、「SEARCH BOOKSHELF」なんてキーボードから打ったのだ。すると日本語で「ホン(BOOK)ガ タクサン オイテアリマス」と表示されるのだ。本のことを「ホン(BOOK)」と表示してくれるのは、本が英語でなんて言うかわかるようにというささやかなやさしさだった。
 日本製のゲームなのに、なんで英語なんだよ! それもそんな中途半端に!
 と君は思うだろうか。僕も思う。
 もともとアドベンチャーゲームのオリジナルの発想自体はアメリカ産だったから、英語版アドベンチャーゲームにならってこんなシステムになったのかもしれない。そういえば日本最初期のアドベンチャーゲーム『表参道アドベンチャー』なんかは表参道なんていうモロ日本な地名まで出しておいて、全編英語(もちろん日本製のゲームなのに)という不思議なゲームだったっけ。
 たとえば「インストール」という言葉にいちおう「導入」という日本語訳があっても、たいていは正しく意味が伝わるように英語のまま「インストールする」と言ったりするように、アドベンチャーゲームのコマンドも英語の方がわかりやすかったのだろうか。
 それに英語なら「I」の一語ですむことが日本語では「わたし」「わたくし」「ぼく」「あたし」「おれ」「あたい」「わし」「じぶん」「わがはい」……etc. と表現がとにかくたくさんあるとはよく言われることだ。こういう表現のゆれにいちいち対応していては制作期間もメモリ容量も奪われてしまうから、日本語をさけたのかもしれない。

 まあけっきょく本当の理由は今でもはっきりとはわからない。最終的にいつのまにか日本語も英語も両対応して「シラベル BOOK」なんていうメチャクチャな文法まで受け付けるようになったから、過渡期の混乱ではあったんだろう。

■ ソレハ デキマセン

 このキーボードから入力するコマンド入力方式、臨場感があってなかなか悪いものじゃないと、少なくとも僕は今でも思う。
 コマンド選択方式の欠点として、最初からできることが全部プレイヤーに見えてる状態だから新鮮なおどろきがないとはよく言われることだしね。
 それでも世間がコマンド入力方式からコマンド選択方式にシフトしていったのには、それなりの理由があった。
 しばしば「やりたいことができない」のだ。
 どっちかというと「やれるはずのことさえできない」ことも多かったのだ。

 たとえ話をしよう。あるアドベンチャーゲームを遊んでいたとする。
 道には水筒が落ちていた。君は「トル スイトウ」で水筒を取った。
 ええとそうだ、ここは熱帯地帯だということにしよう。ジャングルを君は進む。と、「ノド ガ カワイテキマシタ」というメッセージが表示される。このまま放っておいたらゲームオーバーだ。
 そこで水を求めて移動すると、おあつらえむきに小川の前に出た。
 ところが「ノム ミズ」と打つと、「ソンナコトハ デキマセン」と表示される。
 そんなことはできないってあんた、喉がかわいて死にそうだっていう話だったじゃん。
 「ミル カワ」と入力すると、「イミ ガ ワカリマセン」と出る。
 なにがー!? と思って何度か名詞を変えてためしてみると、「ミル オガワ」だと通る。つまり「オガワ」はいいけど「カワ」は辞書登録されてなかったというわけ。
 そ、そりゃあメッセージ上でも常に「オガワ ガ ナガレテイマス」って表示されてたけどそのぐらいの表現のゆれには対応してくれよー。
 と思っているようではまだまだ甘い。こんな単純な表記ゆれどころですまないワナがアドベンチャーゲームにはまだまだはりめぐらされているのだ。
 「ミル オガワ」。「ムコウニ オダヤカナ カワガ ナガレテイルノガ ミエマス」。
 これ以上の情報がない。なんでここで水が飲めないんだ。
 さあここから色々な試行錯誤をするはめになって、なんとなく画面上では川が奥の方にあるから「キタ」に進もうとして「ススメマセン」と言われたり、「ミル ミズ」に「ミズ ハ ミズ デス」と言われたり、「ノム オガワ」で「ソンナコトハ デキマセン」とやっぱり言われたりする。
 正解は「チカヅク オガワ」だったりする。な、なにそれ!?
 いやなんとなくは思ったよ小川が心なし遠くに見えるから、近付かせる展開に持ってきたいんだろうなとは。でもその方法が「チカヅク」じゃないとダメなんだ? 「キタ」じゃ違うの? いや違うよね確かに「キタ」コマンドはあくまでフィールドの移動であってブロック内の細かい移動とはレイヤーが別だよね、とは今になって思うこと。
 とにかく川が目の前にきた! これで水が飲める! もうメッセージも「ノド ガ カワイテ タオレソウデス!」と切迫してきた。
 「ミズ ノム」。もちろん「ソンナコトハ デキマセン」。

 OK、僕らは学習している。ゲームが用意した展開を深読みする必要があるんだろ? で、手持ちのアイテムの水筒。喉がかわいていて川が流れていて水筒を持っているんだから、それを使ってほしいんだよね。
 「ツカウ スイトウ」。「ソンナコトハ デキマセン」。えーっ!?

 それはできていいんじゃない。だって水筒の使い道ってこの場合、水をくむことでしょ?
 「クム ミズ」「ツケル スイトウ」「シズメル スイトウ」……。
 ああ「スイトウ デ オガワ ノ ミズ ヲ クム」とか入力できれば話は早そうなものだが、動詞+名詞という絶対的なしばりがあるくせに語彙が少ない辞書のせいで話はなかなか進まない。

 その後さんざん思いつくかぎりのコマンドを打ったあげく、メーカーの公式Q&A係に返信用封筒でヒントを聞いたり、『マイコンBASICマガジン』の「チャレンジ! AVG」コーナーにヒントが載ってないか探したり、そのゲームを持ってもいない友達に聞いてみたり、ことによってはプログラムを解析したりしたあげく、やっと判明した正しい解はこんなだったりする。

>シラベル スイトウ
フツウ ノ スイトウ デス。フタ ガ シマッテイマス。
>アケル スイトウ
スイトウ ノ フタヲ アケマシタ。
>ツカウ スイトウ
オガワ ノ ミズヲ スイトウニ クミマシタ。
>ノム ミズ
ミズヲ ノミマシタ。

 分かるかー!
 いやまあ正確には分かると言えば分かる。最初に水筒を取ったときに「シラベル」すればすべては丸くおさまったんだ。
 実はこの後に出てくる遺跡の意味ありげな「クボミ」に、このフタが重要な役割を果たしたりするんだ。だからこの時点で水筒のフタを開けるというのは大事な伏線になっているんだ。
 ここでの問題は、制作者が「水筒を調べないプレイヤーの存在を想定していなかった」ことにある。そしてたいていの場合、プレイヤーは制作者の想定外の行動をするのだ。小川の前で「ツカウ スイトウ」したときに当然あるべき「フタガ シマッテイテ ミズヲ クメマセン」というメッセージを出せなかったのはそのせいだ。

■ さよなら、言葉探し

 コマンド選択方式なら、プレイヤーがシナリオの思惑通りに行動していなくても、詰まったときにはコマンドを順に試していけばいつかは必要な解につきあたる。コマンド入力方式だと、へたをすれば一生かかっても答がでない。
 そりゃここまで苦労して正解がわかったときの喜びが大きいのはたしかだけども、それってもうゲーム本来の楽しみとは別の「言葉探し」っていうパズルを遊んでいるだけだよね。

 そんなこんなで、コマンド入力方式はゆっくりと消えていった。
 ついでにいえばそもそもキーボードが付いていないファミコンゲームにはコマンド選択方式がベストマッチだったし、パソコンゲームでも推理物ゲームが流行していて基本的に推理と無関係な「言葉探し」は邪魔ものだったのだ。
 だいいち、たいていのプレイヤーはゲームの本質に無関係な言葉探しにはうんざりしていた。いちいちこれで正しいはずだ! と思ったコマンドを打っては「ワタシノ ジショニ フカノウ(IMPOSSIBLE)トイウ コトバ ハ アリマスガ、ソンナ コトバ ハ シリマセン」とかなんとか言われるのにうんざりしていたのだった。

 話をややこしくするのは、ときどきは十分なヒントや伏線があってそれでいて機知とひらめきがなければ決して思いつかない、ゲームとして正しい言葉探しもあったという事実だ。
 嘘だと思うなら、そう、『マスカレイド』を遊んでみるといい。PCエンジンの『謎のマスカレード』じゃないぞ、あれはあれでリバーヒルソフトの名作『琥珀色の遺言』のアレンジ移植版だから気になるけどいかんせんコマンド選択式だ。そっちじゃなく、もちろん18禁ゲームやBLゲームの『マスカレイド』や『マスカレード』でもなく、フェニックス・ソフトウェアがApple II用に作ってスタークラフトが日本語移植した『マスカレイド』(1983/1985)だ。
 あの異常な難易度を誇るゲームの中でも、特に誰もが頭をひねる最後のボスの倒し方。さんざん思いつくかぎりのコマンドを打ったあげく、ええとメーカーの公式Q&A係はもうないから、あきらめてネットで検索してみるといい。遊ばずにただ検索してもかえって意味はわかんないと思うけど、そこには周到に用意された伏線と巨大な発想の転換でだけ生まれるエレガントな解答があったのだ。

 その後、コマンド選択式でもこういう素晴らしいアクションが可能だと『逆転裁判』ほか数々の名作が示してくれたのはご存知の通り。
 それでも僕などは今でもコマンド入力方式特有の、ゲーム世界に対してどんな行動でもできる(ような錯覚をおぼえる)ワクワク感が失われてしまったことがちょっとだけもったいなく思うのだけど、これってただの郷愁なんでしょうかね。
 さっきから誰に聞いているんだろう、いったい。

「ソンナコトヲ イワレテモ イミ ガ ワカリマセン」

コメント

ケンサク "Steins;Gate 8-bit"

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