この連載もアドベンチャーゲーム、ロールプレイングゲーム、アクションゲームといろいろなジャンルについて書いてきた。この流れから言えば、昔のシミュレーションゲーム(SLG)事情の話もすべきかもしれない。
かもしれないけど、そう思ってふり返るに僕のゲーム歴からSLGがぽっかり抜け落ちていることに気付く。あ、あれ!? こんなにもSLGやってなかったっけ? おかしいなあ、ゲームの食わず嫌いはしないタイプでいたつもりなんだけどなあ。
当時、1980年代はSLGの歴史においても大きな転換点であった。と、聞きかじりの知識で書いています。しかたないじゃないかその歴史に参加してなかったんだから。なんだか数多くの名作SLGが生まれていたとかいう話は聞いているが、その程度なのが聞きかじりの限界。
そこで今回は個人的な知り合いでシミュレーションゲームマニアのEさんに、飲みに行ったついでに僕の知識の追いついていない部分を教えてもらった(本稿中のシミュレーションゲーム知識に間違いがあるとしたら、それはEさんのミスではなくほろ酔い気分でメモ書きしていた僕の誤りや、会話を再構成する過程での僕自身の取材ミスである)。
突然の新しい登場人物に読者のみなさんは戸惑うかもしれないが、簡単に紹介するとEさんはこの連載の例にもれず30代後半。物知りで話上手なので「山田五郎さんとか伊集院光さんの系統」とほめたらなぜか怒られた。映像畑の人で、スマイルブーム社の誰とも面識はない。……今さらだけど、変な連載。
■ 導師に聞く・時代編
筆者(以下J) というわけで、僕にとってSLGはどうもなじみが薄いジャンルなんですよ。
E そこがすでに謎ですよね。僕もそうですけどジョンさんの世代だと、SLGの黄金時代でしょう。
J うーん、たとえば8ビット・マシン全盛期というくくりでもシミュレーション黄金期と言っていいんでしょうか? 僕の中では優れたSLGイコール16ビットの高級機でしか遊べないというイメージがある。
E ああ、確かに傑作『現代大戦略』は最初PC-9801(16ビット機)専用でしたね。8ビット機用はPC-8801用の『大戦略88』のように、タイトル自体が別モノとして発売されました。でもハードの限界はあるにしろ、デキは当時としては相当良かったんですよ。
J そうなの? あの8ビット版シリーズはいろいろ省略した簡易版なのかと思ってた。
E うーん、そういう面もたしかにありますが。実際『大戦略』シリーズは当初、16ビット機向けと8ビット機向けの2ライン制と言うべき状況だったんですが、8ビット版『SUPER大戦略』が16ビット版『SUPER大戦略98』として移植される逆転現象も起きてるんですよ。
J そうなんだ! ただ僕、SUPER大戦略って印象薄くてあまりよく憶えてないんですが……。
E まあ……確かにジョンさんの持っていたFM-7では『大戦略FM』1本しか発売されませんでしたからね。
J やっぱりだめなんじゃん!
E いやあそれは市場シェアとか、色々あったんでしょう。現に長寿シリーズになる名作『信長の野望』や『三國志』も元々は8ビット機のPC-8801向けに作られたんですよ。FM-7にも移植されましたし。
J つまり、8ビット機でもシミュレーション黄金期は訪れていた、と……。
E そう言って構わないでしょう。『信長』『三國志』『大戦略』と大ヒット作が揃っていますし、一風変わったところでは『ディーヴァ』や『エルスリード』なんかもヒットしましたね。
そうなのだ。今回調べてみたところ『現代大戦略』は言うまでもなく、1987年には『信長の野望』『三國志』という光栄(現コーエーテクモゲームス)の二大歴史シミュレーションが発売されている。この3作による3強時代はかなり長く続いて、現に23年たった今も続編が出続ける長寿シリーズ化している。
さらにこの年は、SFロボット物をテーマにアクション要素を組み合わせた意欲作『ディーヴァ』、ファンタジー世界というなじみ深い舞台とシンプルなシステムで人気を博した『エルスリード』『ガイアの紋章』もある。他にも海外作品からは『アート・オブ・ウォー』や『OGRE』の移植版があるし、元祖・市場経済SLG『M.U.L.E.』も移植されていた。変わり種では怪獣ものの『地球防衛軍(タイトルに「THE」がつく現代の有名なゲームとは別物)』『T.D.F.怪獣大戦争』なんてのもあるし、ホラーSLGという今にいたるも珍しいジャンルの『プロデュース』までこの年発売されている。1987年はSLGの当たり年、飛躍の年だったのだ。こうして見直すと。
■ 僕のSLGスルー歴
J いろいろあったけど僕、どれも遊んだことないんですよね……。
E もったいない!
J 雑誌で評判は聞いてたんだけど、興味がなかったんだよなあ。ただ『ディーヴァ』なんかは見た目、SLGに見えないでしょ。あれは遊びたかった。まわりに持ってる友達がいなかったのが★1買わなかった最大の原因かな。
E ということは、「いかにもSLG」っていうゲームは敬遠してたんですか? たしかにSLGというと数値や専門用語が多くてとっつきにくいイメージはあるけども……。
J 敬遠は……してましたね。うん、思い出してきたけど、SLGという時点で買う気が起きなかったね僕は。ただ、とっつきにくさが原因かって言うとどうだったかなあ。
E それは『三國志』みたいな大作じゃなく、もっと手軽なイメージのコンシューマ向けSLGでも? もう1、2年くらい後だとファミコンでも『ファミコンウォーズ』がありましたよね。PCエンジンの『ネクタリス』も名作だったなあ。
J いやあ、まったく目に入ってなかったね。今思うともったいない事をしてたよなあ。
E じゃあ「いかにもSLG」って感じじゃないシンプルな方向ではどうですか。その時期だと、たとえば『シムシティ』なんかジョンさんも直撃世代でしょう。
J そうね。X68000持ってたし。でも僕は『ポピュラス』派だったから(笑)
なにが「(笑)」なんだか書き起こしていてもよくわからなくなってきたので補足しておこう。日本で本格SLG3強がいまだ絶賛発売中だった1989年、突然海外で『シムシティ』と『ポピュラス』という2大SLGが何のまえぶれもなく突然変異的に生まれたのだ。シリーズが現代まで脈々と続いているので知ってる人も多そうだけど、どちらもSLG特有のコマンドと数値のやりとりを非常にわかりやすく可視化(おお、かっこいい言葉)した革新的なゲームで、日本語移植版が出回ったのは翌1990年。当時の「洋ゲー」に対するあつかいには珍しく、本格的なヒット作になったのだった。
もっとも『ポピュラス』が素直に「SLG」と呼んでいいシステムだったかはけっこう微妙で、厳密に言うならリアルタイム育成対戦パズル、もっと簡単に言うと箱庭系ゴッドゲームだったんだけど、なにしろそんな言葉は当時はなく、あえて『ポピュラス』をSLG以外のジャンルで呼ぶなら「ポピュラスというジャンル」という時代だったんだからしかたない。そんな訳で僕が『シムシティ』派じゃなく『ポピュラス』派だったというのも「またよりによってきわどくSLGらしくないところを突いてたなあ」という細かい笑いでさっきの「(笑)」となるわけ。他の理由としては、酒精もそこそこ入っていたということもある。
E 何でもそうだけど、傑作が同じタイミングで発売されると困りますよね。学生は両方買えるほど資金がないから。
J そうそう、そうなんですよ。あそこで『シムシティ』を買ってたら僕のゲーム人生もまたSLG寄りに変わってたかもしれない。
E じゃあ、それ以降も……。ちょっとちょっと、『天下統一』も『太閤立志伝』も『維新の嵐』も遊ばずにあの時代を通り過ぎるなんて、切なすぎるでしょうよ!
J 申し訳ないことをしたと思っています。誰に申し訳ないのかよくわからないけど。
E 『提督の決断』も『太平洋の嵐』も『シュヴァルツシルト』もあったじゃないですか! 入門しやすいところでは『大航海時代』『銀河英雄伝説』なんかもあったし……! 好きでしたよね、銀英伝!
J 原作小説好きだったなあ。うん、ゲーム版は1作も遊ばなくってねえ……。
E 本格SLGじゃなくてもまだまだ『ファーストクイーン』や『ジ・アトラス』や『シムアース』だって……!
J いや本当ごめんなさい。全部遊んだことがないんですすいません。
Eさんの困惑はもっともである。たとえば1986年ごろにバリバリファミコンを遊んでいたという人が『スーパーマリオ』タイプも『ドラクエ』タイプもひとつも遊んだことがないって言いだしたら、それどんなゲーム人生歩んできたんだよ!って思っちゃうよねえ。
Eさんの言うように、力作から実験作まであまたのSLGがゲーム誌をにぎわせた絢爛たるSLG黄金時代を、当時の僕はまったくスルーしていたわけで、やっぱり申し訳ない。誰に申し訳ないのかはあいかわらずよくわからないけど。
けっきょく僕が初めてSLGにハマッたのはスーパーファミコンで『フロントミッション』を遊んだ時。1995年のことだから、もう黄金時代もゆるやかに終わっていた頃だと思う。しかもリアルロボット物シミュレーションRPGという、素直にSLGと分類していいのかちょっと悩むジャンルだ。
こうしてあの頃を思い出すに、僕にとって「SLGは鬼門」という思いが強かったのだ。と言ってもなにも食わず嫌いでそうなったわけじゃない。そこでいよいよ本日のメインイベント、Eさんの助けを借りる場面になるのである。
J たとえば『現代大戦略』よりもっと以前、SLG黎明期っていうものがありますよね?
E そうですね。パソコンだと『大戦略』以前/以後では大きく分かれると思います。逆にコンピュータゲームじゃなく、ボードゲームのSLGは静かな円熟期ではありましたが。
J あ、僕も『ガンダム』のボードゲーム買った記憶あります。
E たしかにファーストガンダムの絶頂期にはけっこう数も出てましたよね。でもどれも当時のジョンさんの年齢にはちょっと早いかも……。
J そうなんだよなあ……あれもあっさり挫折しちゃったんだよなあ……。
E いやいやいや、ここは挫折の話じゃなくて。パソコンのSLG黎明期ですよね?
J そう! 僕が遊んだSLGをね、Eさんに鑑定してほしかったんですよ。なにしろ僕SLGのことはとことん知識がないから。
E やってみましょう。そのゲームとは?
J まず『スタートレック』。
■ 宇宙をさまようエンタープライズ
E スタートレック、名作じゃないですか! PCゲーム史の最初期から色んなバージョンで存在した定番ゲームですよ。
J そうなんだ? 僕が買ったのは……FM-7用で、たしかグラフィックが綺麗だったんだよね。写実的なキャラクターが色々しゃべるんですよ。
E ははあ、となると多分「オールキャスト・スタートレック」というバージョンですね。元々『スタートレック』はテキストだけで淡々と進行するゲームだったんですけど、このタイプはグラフィックを一新して原作TVドラマ(『宇宙大作戦』、原題『STAR TREK』)に忠実な演出を加えたところが出色です。
J 僕、ドラマ版も見てなかったしなあ……。ミスター・スポックとカーク船長はなんとなく知ってたんだけど。
E 最近でも続編や新作映画が公開され続けてますし、有名ではありますね。もっともまあ……ゲーム版は原作の著作権とかあまり気にせず作ったんだろうと思うんですが……。おおらかな時代でしたから。
J 問題はね、これ、僕はルールが把握しきれなかったんだよね。
E あちゃあ。
J だってさ、説明書がまず存在しないのよ。しかも原作を知らないでしょ? 出てくる用語の意味とか、キャラの役割とかよくわからんのですよ。
E ああ、「ワープ・エンジン」はまだわかっても……
J 「フェイザー」ってなに? という。
E 「PHOTON TORPEDO」って言われても、ですか。当時スタートレック型のゲームはありとあらゆるマシンで動いてましたからねえ。定番化したシステムの上に演出とグラフィックを乗せた『オールキャスト・スタートレック』は主要マーケットでは説明書いらずだったんでしょうね、たぶん。たとえば学内でも「電算部」のような場があれば、先輩から後輩に知識の継承もあったんですけど……。
J 僕はちょうどマイコンブームの頃だから、悪く言ってにわかファンなんだよね結局。だから教えてくれる先輩もいないし。
E 惜しいよねそれ。ゲームシステム自体はファミコンの名作『スターラスター』にも影響を与えた、シンプルで奥が深いものなんですが。
J そうだ僕、『スターラスター』も中古で買ったら説明書がなくてすごく苦労した……。
E ああ……。それは、挫折、するよねえ。説明書がないと何をするゲームかかなり分かりにくいでしょう。
J しましたねえ、挫折……。
■ 都道府県の戦い
J 次に遊んだのがちょっとタイトル思い出せないSLGなんだけど、どうも変わり種っぽいんだよね。
E 時代が時代ですから、実験的な作品も多いでしょう。かの光栄マイコンシステム(現コーエーテクモゲームス)もゴキブリ退治ウォーシミュレーション『ホイホイ』なんて変種を出してます。
J うん、そういう点では僕の買ったゲームは真面目というか、日本地図がマップになってるのね、あのゲーム。
E 『信長の野望 全国版』の匂いがしますな。さすがに違うんでしょうけど。
J それ僕も思ったんだけど、……『信長』って、トランプ使ったりしませんよね?
E 何それ。
J あのゲームはそうだったの! たしかトランプのマークが4人のプレイヤーを表わしてたんだったか……で、埋めてくんですよ、日本をトランプのマークでね。
E これは異常事態ですね。
J はい。1戦ごとの勝ち負けの基準は憶えてないけど……マークで都道府県を1つずつ埋めるのが、なんだか面白くってね。これは僕の経験では珍しくとても楽しんだSLGです。
E いや、それ、SLGっていうよりカードゲームじゃないですか?
J ……当時からすでにそんな気はしてたんですが。
E それはちょっと、どうなんでしょう。
J 待ってこれだけは聞いて、たしかにパッケージに「シミュレーションゲーム」って書いてあったんだって! それ目当てに買ったわけだしさあ! 『信長』っぽいじゃん!
E ジョンさんはそういうの多いよね。話題のゲームを買うつもりで、見た目が近いだけの全然違うゲーム買っちゃうの。
J 販路の整備されてない時代っていうのは、そういうものだと僕は思うんですよ。実際どこにも『信長』売ってないんだから。まあ……普通『信長』はタイトル画面のBGMに「フニクリ・フニクラ」鳴ったりしませんよね。
E え? イタリア民謡のアレ?
J 僕は当時「鬼のパンツ」として憶えてたんだけど、だから余計に印象強かったですね。なんだったんでしょうねあれ。
E そのゲーム……多分、『コンバット-47』ですね。僕も遊んだことまではないんだけど。
J ええ!? このヒントで分かるの!?
E だっておそらく「フニクリ・フニクラ」がタイトルに流れる戦国ゲームといえばこれぐらいしかないでしょう★2。確かにこのゲーム「シミュレーションウォーゲーム」って書いてあるんで、当時のジョンさんがSLGと思って買ったのもわからなくはないです。それでこのゲーム、面白いことにチャンピオンソフトから発売されたゲームなんですね。
J チャンピオンソフト……有名なところだと『四次元少女リディア』とか『鬼巌城』とかのアドベンチャーゲームでしょうかね。
E まあそれ以上に知名度が高いのは後年の『フェアリーズレジデンス』シリーズのようなエロっぽいゲーム、いわゆるアダルトゲーム★3でしょう。この路線がウケたのか、チャンピオンソフトは現在『ランス』シリーズで有名な18禁ブランドのアリスソフトとして知られていますね。
J 初期のチャンピオンソフト時代からだと、今のアリスソフトはちょっと想像つかないとこありますよね。……あっ! 話が見えてきた!
E そうなんです。アリスソフトといえば近年『大悪司』や『戦国ランス』といった、エロとは別にSLGとしても評価の高いゲームを出してるところでしょう。それが20年ほどさかのぼると実に『コンバット-47』に行き着くというね。
J 歴史の重みがありますね。「木下藤吉郎、のちの豊臣秀吉である」みたいな。「『コンバット-47』、のちの『戦国ランス』である」。
E まずスタッフは全然違うと思いますけど、言わんとしてるのはそういうことです。
J 講談調だね。「よもや『コンバット-47』が20年後、『戦国ランス』となろうとは誰も知るよしもなかった」!
E そうそう。ちょっと違いますけど「よもや『現代大戦略』が20年後、『萌え萌え2次大戦(略)』となろうとは」!
J あ、じゃあじゃあ「よもや『ロストワールド』が20年後、『クイーンズブレイド』となろうとは」!
E 「よもや『夢幻戦士ヴァリス』が20年後、『ヴァリスX』となろうとは」!
J 「よもや『三國志』が20年後、『恋姫†無双』と……」
E さすがにそれはメーカーが違うんで話が別じゃないですか。
■ 沈まぬプリンス・オブ・ウェールズ
この頃になるとだいぶ2人ともきこしめしているので脱線も多いのである。なんとか話が軌道に戻ったところで、ふたたび僕のゲーム体験談。
J もう1つはタイトルも分からないんですが、日本海軍が主人公のウォーシミュレーションでした。
E 「主人公」……(苦笑)。プレイヤー側が日本海軍というと、少なくとも日清戦争以降・WWII(第二次世界大戦)以前だと想像はつきますが、海戦ものと言ってもちょっと広いなあ……。軍艦や艦載機の固有名詞は憶えてませんか?
J 「レパルス」と「プリンス・オブ・ウェールズ」が出てきましたね。このゲームで憶えた名前です。
E あっ話が早い。プリンス・オブ・ウェールズはWWIIのイギリスの戦艦ですよ。はいはいはい、それにレパルスと日本軍とくればマレー沖海戦が舞台でしょう。これは意外と本格派の予感がしてきましたよ!(うれしそう)
J 本格派と言っていいのか……あの、僕はどのくらいからが本格かよくわからないんですが、5分もかからないで終わるのは本格に入りますか?
E ……ええと、それは……プレイヤー次第という面もおおいに……
J いやいやそうじゃなくって。このゲーム選択肢が極端に少なくって、2種類ある飛行機(陸上攻撃機)のどっちを攻撃に使うか選ぶんですね。そしたらオートで敵艦と飛行機におたがいダメージが入って、また選択して……を2、3ターンか繰り返すと、終わりなんですよ。
E あのジョンさん? お話をうかがうかぎり、プレイヤーの行動って攻撃機を2択で選ぶことしかしてませんよね?
J 他にも選択スキップとか、それか細かいオプションが何かあったかもしれないけど……、大筋そういうゲームだったと思います。変でしょ、これ。
E それはねえ……。ジョンさんジョンさん、もしかしてポニカブランド(ポニーキャニオン)のゲームじゃありませんでしたか。
J あっ、それだ! 僕その後ポニカのMSX用ゲームいくつも買ったから憶えてますよ! 確かにポニカのゲームでした。
E (深くうなずいて)まず間違いなく、『マレー沖航空戦』ですね。これは大変なものを買ってしまいましたね。
J そ、それはやっぱりク×ゲーという……
E いや違います。言うなれば名作の部類なんですが、ジョンさんのがっかりした気持ちもよく分かります。
J ???
■ 20年の時を経て明かされる真実
E これ大元までたどれば、エポック社のSLGボードゲームに『ワールド・ウォーゲーム』という大傑作シリーズがあるんですね。これはご存知でしたか?
J あ、それ聞いたことある。「銀じい」が作ったゲームでしょ。
E イラッとくるなあ、その中途半端な知識(笑)。日本のSLG史でも鈴木銀一郎さん通称「銀爺」といえば最重要人物なんですが、まあその話はおいといて、その方が作ったシリーズの中の1作がこれまた名作『日本機動部隊』。これは入門用としてもよくできていて、シナリオを進めていくごとに段階的にできることが増えていくというものだったんですよ。
J RPGでいうと『ゼルダ』みたいな。
E 肌触りとしては『ドラクエIV』に近いものがあるかな。あれは章立てで、1章はキャラは1人で魔法も使えない、2章は3人パーティーになって……とルールが複雑になっていったでしょう。あのスタイルで非常にシンプルな最初のシナリオ「真珠湾攻撃」で始まって、次が「マレー沖航空戦」、「スラバヤ沖海戦」と進んで……
J ちょ、ちょっと待って! 今さらっと流したでしょうあんた、僕の『マレー沖航空戦』を!
E それが、ここまではさわりなんですよ。この先にいよいよ本格的なゲームになってくる「空母vs.空母」「珊瑚海海戦」「ミッドウェー海戦」「第2次ソロモン海戦」ときて、最後の「連合艦隊vs.太平洋艦隊」を遊ぶ頃にはプレイヤーは立派な中級ゲーマーになっているという教科書的なゲームだったんです。そのうち1シナリオだけを切り取ってPCゲームに移植したのが、ジョンさんの遊んだ『マレー沖航空戦』ですね。
J えぇ……全体の8分の1……?
E いえ、後になるほどボリュームも大きくなるし、特に最初の3ゲームは全体のチュートリアルと言って過言じゃないですからね。全体から見れば数%以下と言ってしまっていいんじゃないかなあ。
J そ、そんな……。
E お察しします。乱数の出目に左右されるソロプレイシナリオですし、PCで遊ぶといよいよ味気なかったと思いますよ。
J なんでそんなシナリオをわざわざ移植するんですか!
E これは邪推になりますが、CPUの思考ルーチンがいらないソロプレイですからぶっちゃけた話、プログラムしやすかったんでしょうかねえ。さすがにメーカー側もボリューム不足だという思いもあったんでしょう、後から『マレー沖航空戦』は『真珠湾攻撃』とセットの実質半額でも売られたんですが……ジョンさんが買ったのは1本きりの方?
J ……間違いなく。
E 罪なシリーズでしたねえ。傑作シリーズをPC移植するという志は良かったんだけど、『ドイツ戦車軍団』もやっぱり3分割されたし、『日本機動部隊』もかんじんの本編は「ミッドウェー海戦」シナリオしか出ませんでしたし。僕ら的には発売予定だった『史上最大の作戦』を待ちに待ったんですが、とうとう発売されませんでした。ただ、これだけは言えますがジョンさんがせめて別のシナリオを買っていれば……! それならまだSLGへの偏見も薄く済んだと思うんですが……。
J 悲しいほどなぐさめにならないなあ。
■ 導師の教訓
「総じて言えることは、こんなに引きの弱い人なかなかいないわ」とEさんは言ったのだった。
僕自身こうしてさかのぼってみるまで、初期のトラウマ体験(とあえて言わせてもらおう。その後を考えればバチは当たるまい)がこんなにも長くゲーム選びに影をさしていたとは気が付かなかった。
もしもあの時『信長の野望』を買っていたら、僕のゲーム人生は大きく変化していたのではないか? もしかしたらあの冬は『天下統一』を遊び倒していたのではないか? もしや受験勉強がだいなしになっていたのではないか? それはそれで困るなあ。
歴史にIF(もしも)はないとは言うが、そうは言っても光栄からはかつて「歴史ifノベルズ」が刊行されていたのである。この話をここで出すのはもちろん脱線だが、当時いかにSLGがイケイケであったかはこんな所からも見て取れるのだ。
脱線ついでに、Eさんが買って「失敗した!」と思ったゲームも聞いてみた。僕だけが引きが弱いというのは悔しいのだ。八つ当たりと思ってくれてもかまわない。
そこでEさんが「実は……」と切り出したのはあのゲーム。発売当時はすごく話題になって、もしかすると同世代の人は心当たりがあるかもしれないあのゲーム。
全員の名誉のためにここでその名は伏すが、タイトルを聞いた僕は思わずこう言った。
「それ、素人の僕の目にもあからさまにヤバそうでしたよ」
Eさんは困ったように笑ってこう言うのだった。
「僕も99%失敗するとは分かってたんですが、もしかすると何かの間違いで傑作かも、と思いまして」
SLG選びに早々くじけた僕など及びもつかないマニアの精神力、参りました。
- 1★まわりに持ってる友達が… 『ディーヴァ』は7機種のプラットフォームごとに別々のストーリーが用意されていて、物語の全体像を知るには他のマシンとソフトを持っている友達が不可欠。他機種版があれば協力マルチプレーもできる豪華仕様だが、逆に言えば他機種の『ディーヴァ』がないとそういう遊びが楽しめないということでもあった。
- 2★フニクリ・フニクラ 仮にも戦国ゲームになぜ「フニクリ・フニクラ」なのか、というのは当然の疑問だが、個人的には当時のゲーム製作がワンパッケージを1人で全部作るのが普通だったことに要因があったとみている。グラフィックは当時の貧弱なハードなのでなんとかごまかせる部分も多い(というかテキストだけでグラフィックが存在しない場合がすごく多い)が、作曲となるとそうもいかないし耳コピもの経験も普通なかなかないものだ。そこでプログラマーは書店で簡単に譜面が手に入る曲を使って間に合わせたのではないだろうか? 実際、昔のゲームには童謡やクラシックがBGMに使われた例がとても多い。以上、余談でした。
- 3★アダルトゲーム 最近この言葉めっきり使われなくなりましたね。俗に言う18禁ゲーム・エロゲーの類だが、当時は18歳未満禁止という規制もなく、「エロい」という俗語もなかったのでみんなこう呼んだもの。