私は探偵である。
本名は探田偵介48歳、最後に行った旅行先は沼津。気さくに探偵と呼んでほしい。
さて、先日このブログマガジンで鞄(かばん)の話題が出たことは記憶に新しいだろう。
もう少し他にましな鞄はなかったのか、と読者の誰もが思ったことだろうが、スマイルブームという会社に秘められた秘密を明らかにするのが探偵の使命である。探偵はさっそく調査を開始した。
普段使っている鞄を見せてもらおうか
プライベートな情報だけに全員からの情報提供は果たせなかったが、多くの現場サンプルを採取することに成功した。以下はその記録である。
証拠物件A
サイズの実感がつかみやすいよう、写真にはごく一般的なDVDケースを一緒に映してある。あまり気にしないでもらいたい。
この鞄だが、比較的スタンダードなビジネスバッグと言えるだろう。このタイプとなると大量生産品が様々なショップで売られているため、バッグから足が付かない選択とも言える。
男がこの鞄をあえて選んだ理由をそれとなく聞いてみた。
「黒いカバンを選んだあたりがこだわりかな」
あまり深いこだわりはなさそうだ。
証拠物件B
「カバンはいつも北海道のメーカーで買うと決めてます」
さすがは札幌の企業というところか。使い込んだ革の質感が印象的だが、これは……?
「馬具屋さんで買ったの。本格的でしょ」
北海道=牧場という偏見を生みはしないかいささか気になるところではある。
この時、鞄の中に気になるなにかが見え隠れしたのを探偵は見逃さなかった。何かを隠しているのか!? その物品とは……。
引くわ!
キーチェーンにかかっているのはかたや怪獣ストラップ、かたやセクハラ・グッズである。なお、問題となる箇所には星形の修正をかけてある。当局の圧力は厳しいのだ。
「『なまけ怪獣ヤメタランス』が好きなんだよね。キャサリン(※仮名)は……たしかクレーンゲームでたまたま当たったんだったかなあ」
キャサリンって、誰だ。
証拠物件C
トートバッグ状だが、それにしては妙に大きい。これまでの証拠写真でのDVDケースとの比率差と比べると異様なものがあるが……。
「とにかく何でも入るようなやつが欲しくって。結構あちこち探し回りましたねー。1000mlのジュースと弁当に分厚いマンガ雑誌2冊、携帯HDDにミニノートPC入れてもまだ余裕ですよ」
シチュエーションがよく分からないが、本人がそれでいいのなら多分いいのだろう。
そこまで何でも入るなら、余計な物も入っていそうだが……。
だから引くっつうの!
「胃薬とかカゼ薬ですけどね。いろいろ種類買ううちに増えちゃって」
証拠物件D
これまた質実剛健なビジネスバッグだ。
「A4サイズのノートペーパーが入ればそれでいいぐらいの気持ちで……」
さっきの鞄と正反対の発想である。
はたして同じ職業の人間の鞄に、これほどの思想の差があらわれて良いものだろうか。
証拠物件E
「オレンジがお気に入りです」デザイン重視と言うべきか。しかし、問題はその鞄の中である。
なぜこんな物がこの中に?
「実家から持って帰るつもりが、ずっと入れっぱなしに……」
それでは何のために持って帰ったのか分からないのではないのか。事件は迷宮入りの様相を呈してきた。
証拠物件F
「服に合わせたデザインのものを買いました」
つまり、今着ているその服が……
「あ、これは全然関係ないです」
ないのか!
そして、鞄の中には……。
鞄からぞくぞくと出てくる小さな鞄。もはやさっきの鞄は単に「鞄を入れるための袋」だ。うまく工夫すれば殺人トリックに使えそうだ。
「ちゃんとエコバッグも用意してあります」
証拠写真の左上から右下に伸びる白い線がそれである。
……これはエコバッグではなく、レジ袋だ。
- 鞄の機能性は重視しない傾向にある
- むしろ何も重視しないむきの者もいる
- 余計な物を持ってくるやつが多すぎる