私は探偵である(ゲスト出演)。
スマイルブームのオフィスで事件が起きたと知り、急いで駆けつけたのだ。
現場には主のいない机。その上に、こんなメモが残されていたという。
おそらく先週末、次に出社した朝に仕事を忘れないように書き残したメモと思われるが、問題は書きかけの「ついでに」だ。
いったい何のついでに、あるいは何をついでにしようとしていたのか……?
あまりにも不自然な記述。ここまで書いて不意に消息を絶ったとすれば、これはもはや事件だ。
騒然とするスタッフ達に、探偵はきっぱりと言った。「私の推理によれば、今朝9時を過ぎたときにこの謎は解ける」
午前9時。それは出社時刻である。
メモの主はあんのじょうちょっと遅れて出社した。わりとよくある。
本人に聞くのが一番早いと探偵はふんだのだが、しかし彼は「いったいなぜこんなことに……」とくり返すばかりだった。本人にさえ記憶がないという。記憶喪失!? あるいはうっかりもの!?
事件は振り出しに戻ってしまった。
その時、スタッフの1人が重い口を開いた。
「振込なら銀行の近くの××に寄るついでにってことじゃないんですか。おととい、××に行くって言ってましたよね」
事件は解決した(あっさりと)。
すべては社会のゆがみと、あと「さすがにこれは忘れないだろう」という思い込みが生んだ悲劇だった。今夜は苦い酒になりそうだ。