NEW RELEASE『ストック・ロマンス』2010.4.1 on sale
【初回限定盤】¥3,800(税別)※日本限定オリジナルDVD同梱
【通常盤】¥2,200(税別)
ライナーノーツより 文・杉並陽一(音楽ライター)
安心してほしい。あなたが今手にしているCDは、正真正銘本物のラッパー、キング・ドバイ(以下KD)の記念すべきファーストアルバムの完成盤だ。ミックスダウンミス、生産工程の不良、音飛び、あなたの聴覚の深刻な問題、パチ物をつかまされた、そういった疑念を抱くかもしれないが少なくともその大半は杞憂にすぎない。これこそがラッパーにして世界有数の大富豪、KDのサウンドなのだ。
~楽曲解説~
Track 1 "All Things are Made of Money"
アルバムの輝かしい始まりを予感させる、美しく雄大なインストゥルメンタル・アンセム。あまりに美しく雄大すぎると感じるリスナーもいるかもしれないが案の定、映画音楽からの露骨な剽窃だったことが発売直後に明らかになっている。むろん本国アメリカでは訴訟沙汰に発展したが、KDが言い値にさらにボーナスを付けて支払う形でスピード和解にこぎつけたという。KDのビッグさ(財布の)を示すエピソードだろう。
Track 2 "ハウ・マッチ・アー・ユー 〜オレはストップ高〜(How Much are You)"
シングルカット曲としても知られる、KDの代名詞とも言えるトラック。印象的な「もうトリュフなんか見たくもねえ」という言葉が示すように彼独特の〈持てる者の苦悩〉を歌っており、まったく感情移入できないことなどを別にして少なくともKDがラップ界においてワン・アンド・オンリーであるとは言えるだろう。最終的に食べ物の話しかしていないという歌詞の底の浅さにも改めて驚かずにはいられない。
アルバム制作過程の初期段階で生まれたこのトラックは、大胆にもやり直しなしの完全一発録音(ワン・テイク・オンリー)で作られていて、中盤リズムを見失って数秒間無言のままリズムをとらえ直している場面からはこれがいかに無謀なチャレンジであったかがうかがえる。
Track 3 "Black Than White"
クレジットカードの黒い色合いがどうしても気に入らないというKD流悲劇を歌うメロディアスな楽曲。どう聴いても音階を外しているとしか思えないメロディと、それをごまかすようにボーカルトラックを重ねてユニゾンでお茶を濁すやり方に一層KDの音感の無さが浮き彫りになっている。
Track 4 "Present Over"
敬愛する祖父の死と、それにまつわる遺産相続の顛末を悲痛なリリックに乗せて歌い上げている。賛否両論はあれど歌詞の不謹慎さはいなめないだろうが、実際にはKDの祖父はいまだ健在らしく、肉親の死という悲劇的状況をシミュレートして自己陶酔しているだけというのが真相らしい。それを踏まえて聴き直せばいかにもKDらしい、金と自分の事だけしか考えていない楽曲として新たにとらえなおせるのではないだろうか。
Track 5 "Death Dealer"
ラスベガスのカジノでのワン・ナイト・スタンドをライムした比較的ポップな曲で、70'sファンクの影響を強く感じさせるサウンドに仕上がっている。「俺は100万ドル負けたことにも気が付いていなかった」とダイナミックなイントロから始まるこのトラック、いわばKDからファンに向けたカジノ勝負の手ほどきといった内容になっているが、断片的に描かれる状況から判断して確率論はおろかルール自体を理解していないのではないか? という疑問が沸いてくる。
KDはこのトラックについて「俺にとってカジノは誰かと楽しくやるための社交場でそれ以上でも以下でもない。でも中には勝負や金のやり取りのためにカジノを使う人間もいるだろう? そのギャップが面白いと思ったんだ」と、変わらぬ上から目線で語っている。
Track 6 "Goodnight, So Long" (guest MC Knight Dubai)
これほどのリッチ・マンとなると誘拐や強盗の危険と無縁ではいられない。常にKDの周囲にはSP(セキュリティポリス)がつかず離れずで警護しているという。このナンバーは、そんなSPの視点からKDの孤独を綴った異色作。KDが客観的に自分を見ることができるとは新鮮なおどろきかもしれないが、本作ではKDはプロデュースのみ担当とのこと。その代わりになんとゲスト・ラッパーとして本職のSPであるナイト・ドバイがMCを演じている。
ラップはド素人だったというナイト・ドバイだが、さすがのKDは金に物を言わせ彼のために一流のボイス・トレーナーをあてがっている。「言わされている感」に溢れたリリックはさておき、ラップの腕前はKDを遙かに超える仕上がりとなっており、本アルバム中ベストの一曲と言えるかもしれない。
Track 7 "Who Is The Future?"
自身がヒップホップをよく分かっていないがためにラッパー達をディス(攻撃)する事自体はまれなKDだが、本作ではかの50セソトに向かって挑発的にライムする。もっとも彼が50の曲をろくに聴いていないのは歌詞からも明らかで、「そんなに貧乏なら50万ドルくらい融資するぜ?」という言葉に特徴的なように「50=本当に資産がそれしかない人物」と誤解しているあたり実にKDらしい。この曲に対して50は当然ながら黙殺。誰にとっても幸運なことにビーフに発展することはなかった。
Track 8 "Truce is The Gold" (feat. Oil Dollar)
「オイル・ダラー」名義で誰もが知る有名ディーヴァが参加しているとのことだが、「(この楽曲に参加したのは)契約金に釣られてやった事だが、まさかここまで酷いとは思っていなかった。恥ずかしいから絶対に秘密にしてほしい」という要求によって完全匿名になっている。その歌声から誰がオイル・ダラーの正体なのか探るのも一興だろうが、KDがハモろうとして被せる歌声が大きすぎてろくに聞き取れないため特定は困難かも?
Track 9 "Back to American Dream"
フリースタイルとは無縁、あるいは全曲がフリースタイルと言っていい(常に途中で言葉に詰まる瞬間があるから)KDだが、このトラックに関して言えば強くフリースタイルを志向している。自宅の超豪華プライベートシアターで映画を観つつ、ところどころで感想を垂れ流し的にライムするという非常にお手軽な内容で、これを「いける」と判断したKDの奔放な視点にはヒップホップ界への挑戦的な態度が見え隠れしている。ネタにしている映画が『ロッキー』シリーズという安直さもKDらしいと言えるだろうか。
日本盤ボーナス・トラック
Track 10 "Black Than White (Live)"
NYサウスサイド・クイーンズ地区でのパフォーマンスを収録したライブ・テイク。観客の声がオープニングのざわめきから強烈なブーイング、さらに中盤以降の帰れ (Go Home!) コールに発展していく様は圧巻の一言。この騒音が一瞬だけ静まったり急にそれまでと違うタイプのヒートアップを見せる時があるが、これはKDがドル札束をオーディエンスに投げつけた瞬間で、トラックに強烈なグルーヴ感を与えている。
初回限定盤特典DVD
"メイキング・オブ・『ストック・ロマンス』~キング・ドバイ、大いに踊る"
「キング・オブ・ポップの称号を金で買った男」と呼ばれるKD。その揶揄を剛胆にもポジティブな声援だと勘違いしたKDが、本家マイケルよろしくアルバム制作過程のメイキングと、特に誰にも要求されていないダンスステージの映像を織り交ぜた、全2時間43分の特典映像。内容の是非はともかくこの溢れるサービス精神と自己顕示欲だけは賞賛に値するだろう。
P.S.
最後に、この原稿を書いているまさに今リアルタイムで入ってきたホットなニュース。なんと先日彼の所持する株が立て続けに大暴落、無一文はおろか借金まみれになってしまったという。ネット上では既にドバイの豪邸を手放したりこれまでに投げつけた金がまだ落ちていないか探す旅に出た等の噂が駆け巡っているが、正確な続報が面白半分に気になるところだ。Make Money!