キング・ドバイ自宅の納屋にて撮影 キング・ドバイ(以下KD)の生い立ちについては謎が多いが、生まれた時からの大富豪だったことは確かだという。世界規模のブローカーである父とスーパーモデルの母の間に生まれたKDは何ひとつ不自由のない環境で育ち、贅沢三昧の暮らしに慣れきっていた。すでにティーンエイジの頃には大水槽で飼っていたピラニアにたいていの動物を食わせ終わっており、この手の遊びには飽き飽きしていたという。そんな彼がラップに目覚めたのは実に38歳の時だった。遅きに失した目覚めと言うべきだろうか? しかし彼が10歳の頃には多くの音楽コンクールで同世代から並居る大人達までの誰よりも見事に審査員を買収し、数え切れないほどの音楽的栄冠に輝いてきたのも事実だ。ラップに開眼してからのKDの行動は素早い。あり余る金を湯水のように使いレーベルを立ち上げ、彼のためのスタジオ、彼のためのクラブ、彼のためのイベント、彼のための観客を用意した。特に当時、一流の役者達の中から厳選され雇われたオーディエンスのボルテージは凄まじいものだったという。

 この成功に自信を得たKDは古巣ドバイを捨て、ヒップホップの本場NYへと旅立つ(豪華自家用ジェットで)。初めてのアウェーとなるNYだが、彼のスタイルには一分の迷いもなかった。「金ならやる!(These R your money!)」ショウの幕開けにいつもKDはそうシャウトした。そこからは彼の独壇場で、リリックのど忘れからアドリブの効かなさ、そもそもヒップホップかどうかがまず疑問な音楽性、にもかかわらずあまりに堂々とした態度と、KDは常に己を貫いていた。そのサウンドに「とにかく何でもいいから一発殴らせろ!」と感じるのはどの地区でも同じだったらしく、興奮が頂点に達したオーディエンスが暴動を起こすことも日常茶飯事だった。警察の記録に残っているだけでも3件の暴力事件が起きているというから凄まじい。凄まじい、というのは賄賂に屈しなかった警官がわずか3人だったという警察の腐敗のことだ。

 こうしたライブパフォーマンスが多く取りざたされるKDだが、もちろんレコード・CDの記録的な売上も忘れるわけにはいかない。ラッパーとしてあまりに商業的すぎると批判されることもあるKDだが、彼の「全部自分で買う」という画期的な戦略は爆発的ヒットを生み出し、ファーストCDアルバムの売上は実に3000万枚! これはマイケル・ジャクソンの『Dangerous』を超える記録であり、KDが「キング・オブ・ポップの称号を金で買った男」と呼ばれる由縁である。

 ドバイ、そしてアメリカの成功からかなり遅れての日本リリースとなった訳だが、読者はここで日本のレーベル各社を責めないでほしい。彼らはKDに興味がなかった訳ではなく、KDが「だいたいこんなもんだろう」と提示した契約金のあまりの高額さに、どのレーベルも尻込みしてしまったというのが真相なのだ。では、スマイルブーム・レコーズがなぜこの「金の卵を産む上に金でできたがちょう」を買い取ることができたのか? これにはとんでもない裏話があって、レーベル側が「あなた(KD)は金を出してくれ、そうすれば我々はCDを売る。もちろん印税もなしだ」と持ちかけたというのだ。これにはKDも仰天。「どうしてその方法に気が付かなかったんだ!」と、意外なWin-Winの関係が成立したという。正直あやかりたいものだ。

文・杉並陽一(音楽ライター)

ジャパンデビュー記念・KD自ら日本のオーディエンスにメッセージ!

Yo! 日本の諸君に俺から人生の単純な真実について教えておこう。お前達がいくら願っても、俺のようにリッチになるなんてことは絶対にありえない。俺は並外れた例外なのだという事を憶えておいてほしい。その上で言うが、人生で最も大切なものは金だ。つまり人生とは思い通りにならないものってこと(笑)。だが、俺のCDを聴くことで多少なりとも金とは何か? それを知ることはできるかもしれない。今回のアルバムは金の匂いに溢れている。それを感じ取ってくれたなら俺はハッピーだ。Make Money!

SmileBoom Records